スフさんは、ちょっと困ったおじいさんで、酒を飲んで「金をくれ」と電話してくる。
「二度と電話してくるな!」と言って喧嘩になった。
それでも、年金が少なくてお金が必要だというので時々翻訳の仕事を回していた。スフさんの翻訳はちょっと古くさい日本語だがきちんとしている。酒を飲んでないときの仕事ぶりは結構きっちりしている。ロシア語と日本語が上手で、かつて外務省に勤務して日本やイギリスに住んでいたこともある。外交官というとエリートだが、そんな仕事も、酒のせいで失ったと聞いた。酒以外の楽しみは釣りで、遠くに釣りに行ったとか、日本の釣り道具は出来が良いとかいう話をよくしていた。
正直、スフさんのことは、ここ数年、忘れていた。いつの間にかオフィスに仕事がないかと訪ねてくることもなくなっていたし、翻訳の仕事は頼みやすい若い人にやってもらうようになっていた。
今年はじめに久しぶりにスフさんのことを聞いたのが訃報だった。激寒の中スフさんが釣りに行き夜ゲルに泊まったのだが、ウォッカを飲んで泥酔し、外に小便に出て行ったまま帰ってこなかった。翌朝、ゲルの近くで硬くなったスフさんが発見された。道に迷い寝てしまったらしい。
酔って水面の月を捉えようとして溺死した李白の最後に似ていなくもない。